その人に合った歯並びとかみ合わせを
いろいろ述べてきましたが、歯の矯正の本来の目的とは何でしょうか。いうまでもなく、それは「健康」です。きれいになることも大事ですが、歯が臓器であり消化器の重要な一部をになっていることを考えれば、健康を大一義の目的におくのは当然でしょう。
そういう考えから私は、極端にいえば多少歯がガタガタでも、出っ歯でも受け口でもいいと思っています。それがその人に合っていて、食べ物を噛んだり話したりするのに支障がなく、体調不良をまねいていなければ、何ら問題はありません。それはその人の幅の中の乱れであって、調和がとれていて正常なのです。
しかし、許容範囲を超えて出っ歯や受け口になると、やはり多少問題が出てきます。それは人間咬合学から見ても異常なことですから、みなさんも気にされて治したいと考えるわけです。ただ、全員が同じように平均値に入ればいいというわけではありません。その人のもっている骨格の中で、最もいい状態になればいいのです。
人には丸い顔の人もいれば、四角い顔の人もいます。つまり人間の体は「右と左」「いい、悪い」というふうに、二極分化されているものではありません。歯も同じで、上がすごく出ている出っ歯から少し出ている出っ歯、さらに下顎が出る受け口というように、順次にいろいろな変化をしています。その人の遺伝子や環境などによって、一定の枠の中でですが、さまざまな形があるのです。
ですからいちばん大事なことは、その歯がその人の骨格に対してどうあるべきかということです、上の顎が出ている人はそうなる骨格があり、下の顎が出ている人もそうなる骨格があるのです。順次の変化の中で、その人の骨格や筋肉の動きにいちばん適応した歯の位置、形があるはずです。それがその人にとっての正常な形であり、それを探すのが私たち矯正医の仕事ではないでしょうか。