大切なのは原因除去
これまでお話してきたように、歯並びの異常は全身的な不調の原因になりますし、子供なら学力の低下やいじめ、非行などに結びつくこともあります。また、お年よりでは認知症になる可能性が高いといえます。歯並びが心や体に与える影響は甚大なのです。
ただ、みなさんは歯並びというと、常に人目につく前歯だけを意識し、前歯をきれいにするのが矯正治療と思い込みがちです。ここに落とし穴があります。歯並びの異常は、決して前歯だけの問題ではないのです。
私はこれまで患者さんの治療をしながら、その患者さんの歯並びが悪くなった原因をいつも考えてきました。異常の原因、それをさぐることが大事なのです。どんな病気でも同じでしょう。症状が出ている裏には、必ずその原因があります。たとえば子供が40度の高熱を出したとします。熱が出たから解熱剤だけを処方されて、お母さんは本当に安心できるでしょうか。なぜ高熱が出ているのか不安になり、その原因を知ろうとするのではないでしょうか。
高熱の原因はただの風邪かもしれませんし、あるいは何か重大な病気のせいかもしれません。当然のことですが、原因によっておのずと治療も異なってきます。お母さんが求めているのは、単に熱を下げるだけの対症療法ではなく、高熱の原因を取り除いて根本から治す原因除去療法のはずです。そのために病院でいろいろな検査を受け、原因を突き止めようとするのではないでしょうか。
歯並びの異常も、それとなんら変わりません。出っ歯だから前歯をうしろに引っ込めればいいというものではありません。八重歯だから、それを抜けばすむというものでもないのです。前歯を乱している原因をきちんと調べ、それを根本から治さないと、対症療法の治療をしても、また歯並びが悪くなってしまいます。解熱剤で熱を一時的に冷ましても、また熱が出るのと同じなのです。