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「歯を守ってあげるのが歯医者だ」

あれは私が小学校に入学する前後の頃だったと思います。あるとき父に「歯医者さんは何をするの?」と尋ねたのです。年かさの子供たちが「歯医者へ行くと歯を抜かれ、痛いし、こわい」というのを耳にしていたので、そんな質問をしたのでしょう。そのときの父の答えはいまもはっきり覚えていますが、こうでした。

 

「患者さんの歯を守ってあげることだよ。たとえグラグラした歯でも、できるだけ抜かない。一週間でも一日でも長く、歯を残してあげることが歯医者の役目なんだよ」

 

意外でした。父の口からてっきり「悪い歯を抜くのが歯医者」という言葉が出てくると思っていたからです。そして、いまもはっきり覚えているのは、幼い私に対しそう答えた父が真剣な表情をしていたからでしょう。「ふ−ん、そうなの」といった私は、もちろん父の言葉の意味するところを分かっていませんでしたが、自分の父親が、世の中でいわれている普通の歯医者とどこか違うなということを感じていました。原点ということでいうなら、父と初めてこんな会話をかわしたその日がそうだったかもしれません。

 

父は息子の私に対し、体裁をつくろってそんなことをいったわけではなく、実際にそういう歯科医でした。人口5千人の加茂町には当時、私の家をふくめ、3つの歯科医院がありましたが、一番患者さんが多かったのが父の医院でした。もちろん、地理的な条件などいろんな要素があったのでしょうが、やはり歯科医としての父の治療ぶりが大きな理由だったと思います。とにかく、どの患者さんにもていねいに接し、先ほどの言葉通り、なるべく歯を抜かない治療に徹していました。

 

そんなに繁盛する歯科医ならずいぶん儲かっていたとお思いでしょうが、これが逆だったのです。他の歯科医ならすぐに抜いてしまうような状態の患者さんにも、なるべく残すように治療してあげる。抜歯すればたとえば1万円の収入になりますが、しませんからゼロ。つぎの再診料が16点、つまり160円、これだけです。

 

抜歯すれば、つぎに入れ歯を入れたりしますから、歯科医としてはさらに収入が増えます。母はずいぶんボヤいていましたが、父はそんなことには無頓着なわけです。おまけに父は、診療報酬のもとになるレセプトも書かず、母がせっせと保険の請求書を書いたりしていたものでした。

 

患者さんの歯を安易に抜いたりせず、少しでも残してあげるように治療する。そんな父の姿勢は、まだ歯科医になる気持ちもかたまっていない頃から、幼い私のどこかにしみついていたような気がします。それが後年になって、矯正のために健康な歯まで抜いてしまう治療への反発につながったのだと思います。

 

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