なぜ顎関節機能のチェックが必要なのか
いまお話したことでおわかりのように、MK方式では治療の前後に数種類の検査を行っていますが、なかでもいちばん重視しているのが顎関節機能の検査です。なぜなら顎関節はかみ合わせと密接なつながりがあり、その機能は歯の動きと連動しているからです。
顎関節と歯の関係は、ドアとヒンジ(ちょうつがい)の関係にたとえれば分かりやすいでしょう。ドアとヒンジがうまくかみ合っていればドアはぴったり閉まりますが、ヒンジの調子が悪いと、いくらドアの形を調節してもぴったり閉まりません。逆にドアがゆがんでいれば、ヒンジを傷めてしまうことになります。この場合ドアが歯、ヒンジが顎関節で、顎関節と歯が調和していれば、かみ合わせもうまくいくのです。
私たち矯正医は、顎関節の内部を直接さわることはできません。しかし、歯並びを変えることはできますから、なるべく顎関節に負担のかからない歯並びにすることによって、ひいては顎関節の機能を守ることができるわけです。そのためには、きちんとしたデ−タに基づいて歯の位置を決めなければなりません。
そのデ−タとして必要なのが、顎関節の機能なのです。生体にマッチした動きをしているか、上顎の形と相関しているか、下顎頭と関節窩にずれはないのか、3級のテコの原理が維持されているか・・・・こうした正確なデ−タがあって初めて、1本1本の歯の位置が決まってくるのです。そのうえでできたものこそが、顎関節にぴったり調和する歯並びといっていいでしょう。
前章で、矯正歯科の始祖・アングル博士の手紙を紹介しました。そこにはこう書かれていました。
「すべての歯を保存し、かつそれぞれの咬合面を正常で調和した関係に位置づけることによってのみ、顔貌に最高の治療結果を獲得することができるのです」
100年も以前の言葉です。矯正治療の装置も技術も、検査機器もなにもかもが、いまとはくらべものにならないほど劣っていた時代に書かれた言葉であることを思うと、改めて驚き、感動を覚えます。アングル博士のその理想が100年の歳月を経て、非抜歯矯正治療という形で現実のものとなっているのです。