全身に広がる顎関節症の恐さ

 テコの原理が狂い、顎関節に障害が出てきた疾患は一種の顎関節症です。つまり、顎関節症は歯やかみ合わせに原因のあるものと、顎やその他のものに障害のあるものに分けられます。顎関節症は関節単独の病気ではなく症候群で、関節を中心として異常によって起きるさまざまな症状を総称したものです。

 その症状の代表的なものには、「口が十分開かない」「口を開けたり閉じたりするときにカクカクという音(クリック音)がする」「ものを食べると顎や筋肉が痛い」という3つで、これが顎関節症の3大症状です

 この状態を放置しておくと、症状は全身に広がっていきます。顎の痛みや頬の筋肉痛、歯に水がしみるなど顎や歯の症状はもちろん、頭痛からめまい、鼻づまり、のどの異物感、肩こり、ヘルニア、指・関節の痛み、腰痛・・・・ほとんど全身病といっていいほど、体中に症状の出るのが顎関節症です。しかも、不定愁訴の項でお話したように、口の中に原因があるとなかなか分からないのが、顎関節症の恐い点でもあります。

 私たち歯科医は、かみ合わせのずれや顎関節の異常が全身症状に及ぶことを経験的に知っています。日々接している患者さんから訴えを聞いていますし、顎関節の位置や役割を考えても、それは容易に想像できることです。しかし「なぜか」ということについては、まだ医学的に十分に解明されていないのです。

 しかし、重要なポイントは、顎関節が脳に近い位置にあり、しかも頭蓋骨と頸椎をつなぐ関節部に近いことです。

 先ほども述べたように、顎関節は下顎頭と側頭骨でできていて、下には頸椎があります。頸椎は脊椎の上部を構成し、ここから骨盤まで背骨によってつながり、さらに股関節から足の骨へとつづいています。頸椎が安定しなければ頭蓋骨も安定せず、骨盤にゆがみがあれば上半身をしっかり支えられません。つまり頸椎と骨盤は骨格を支えるキ−ポイントなのです。そして、そのキ−ポイントに少なからぬ影響を与えるのが、顎関節であり、歯並びなのです。

 それがよく分かるのは「姿勢」です。歯並びが悪いと姿勢が悪くなることは、多くの歯科医が指摘しているところです。顎関節のずれが頸椎のずれを招き、さらに骨盤のゆがみを引き起こすのです。片方の肩が上がり、片方が落ちている。まっすぐに立てない。前屈み。ぐにゃぐにゃしてしっかり座れない。こういう人の背骨を見ると、たいてい湾曲しています。ひどい場合は背骨が左右にS字状に曲がっていることもあります。

 背骨が曲がっていると、どんな影響が体に及ぶかといえば、背骨の中心には、脊髄という中枢神経の束が通っています。これは脳と抹消部をつなげる神経の束で、そこからさらに31対の脊髄神経が出ています。脳から出た脊髄は頸椎を通り胸椎に達していますが、頸椎や背骨にゆがみがあるとこの神経が圧迫され、抹消にさまざまな症状が出てくるのです。

 このように、顎関節という頭部の一部で起きた異常が全身に及ぶのは、頸椎のゆがみを通して脊椎を湾曲させることに、原因のひとつがあるといえるでしょう。

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